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京都地方裁判所 平成7年(行ウ)36号 中間判決 1997年8月22日

原告 五代目会津小鉄(旧名称四代目会津小鉄)

被告 京都府公安委員会

代理人 新田智昭 山崎裕之 中本敏嗣 谷岡賀美 奥田一 長田賢治 村田泰穂 信田尚志 戸根義道 谷口弘美 ほか七名

主文

一  四代目会津小鉄は名称を五代目会津小鉄に、代表者を圖越利次にそれぞれ変更した。

二  四代目会津小鉄が解散により当事者能力を喪失したから、四代目会津小鉄に関する本件訴訟は終了し、四代目会津小鉄訴訟代理人も本件訴訟手続に関与する権限を喪失した旨の原告の主張は理由がない。

事実及び理由

第一請求

被告が平成七年七月二〇日「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」(以下「法」という。)三条に基づいてした原告を指定暴力団として指定する旨の処分を取り消す。

第二事案の概要

本件は、原告が被告に対し、被告が平成七年七月二〇日付けでした原告を法三条の規定する暴力団と指定した処分に対し法が違憲であるほか、法の定める指定要件が欠缺するなどと主張して指定処分の取消を求めた抗告訴訟である。

一  前提事実

1  当事者

原告は平成七年七月二〇日に被告から法三条に定める「指定暴力団」に指定された団体であり、被告は京都府知事の所轄の下に設置された京都府の機関である(争いがない。)。

2  関連法令

国会は平成三年五月八日に法を成立させ、これを受けて政府は同年一〇月二五日に政令第三三五号(以下「施行令」という。)を制定し、同日に公布した。また、国家公安委員会は同日に国家公安委員会規則第四号(以下「施行規則」という。)及び同第五号(以下「聴聞規則」という。)等を定めた。法、施行令、施行規則、聴聞規則はいずれも平成四年三月一日が施行期日であった。

3  指定処分

被告は平成七年七月二〇日に原告を指定暴力団に指定(以下「本件指定処分」という。)した(争いがない。)。

4  審査請求

原告は、本件指定処分を不服として平成七年七月二七日に国家公安委員会に対し審査請求をしたが、国家公安委員会から同年一〇月二六日に審査請求を棄却する旨の裁決を受けた(争いがない。)。

二  主な争点

1  原告である「団体」の存否

(原告の主張)

四代目会津小鉄(以下「四代目」という。)は、伝統的家父長制度による擬制的血縁関係で構成されている団体であって、高山登久太郎(以下「高山」という。)を親とするほか、子及び弟並びに高山の判断により構成員とされた準若中によって一家を形成し、四代目の内規の制定改廃権限及びその他の決定権は高山に専属し、一切の決定事項が子及び弟らの多数決による意思決定に影響を受けることがないから、法律上の社団ではない。そして、四代目の代表者であった高山は平成九年一月八日に当代の引退表明をして同年二月一二日に四代目を解散させた。

ところで、圖越利次(以下「圖越」という。)は自分を親として四代目と同様の擬制的血縁関係で構成されている団体を五代目会津小鉄(以下「五代目」という。)として発足させたが、五代目は擬制的血縁関係が四代目と全く異質でその構成員も四代目と異なるので四代目の承継人になりえない。

したがって、四代目は解散により完全に消滅して当事者能力を喪失したから、四代目に関する訴訟は終了し、四代目訴訟代理人は本件訴訟手続に関与する権限を喪失した。

(被告の主張)

(一) 法は、規制の対象者を特定するため、都道府県公安委員会(以下「公安委員会」という。)が指定暴力団を指定することとしているが、公安委員会が指定暴力団を指定するときは、法及び施行規則の規定に従って、指定に係る暴力団の名称、主たる事務所の所在地、代表者の氏名及び住所等を官報により公示しなければならないし、その公示された事項に変更があったときはその旨を官報により公示しなければならない。他方、法は指定暴力団が解散その他の事由により消滅したときは公安委員会は指定を取り消さなければならない旨定めている。

そうすると、法は指定暴力団が同一性を保ちつつその名称や代表者を変更することがあることを想定し、その場合には取消事由には当たらず、指定の効力が名称や代表者の変更後の団体にも及ぶことを当然の前提としているということができる。そして、その場合の同一性の判断は名称や代表者の変更の経緯、名称や代紋等の表象、組織構成、組織運営の方法等の実態を総合的に考慮してなされるべきである。

(二) 高山は平成九年一月八日に会長の地位から退き四代目から離脱すること及び次の会長を四代目の若頭であった圖越とすることを明らかにした。そして、同月一四日に高山の擬制的血縁関係上の弟二名と子一名を圖越の擬制的血縁関係上の弟とする趣旨の「舎弟盃」と称する催しが行われ、同月二六日には高山の擬制的血縁関係上の子一〇名を圖越の擬制的血縁関係上の弟とする趣旨の「舎弟盃」と称する催し及び高山の擬制的血縁関係上の子四五名等を圖越の擬制的血縁関係上の子とする趣旨の「親子盃」と称する催しが合わせて行われるとともに新役員の人事が発表された。同年二月一二日には「五代目会津小鉄継承式」と称する催しが準若中以上の構成員のほとんどが参列して行われ、この式により「四代目会津小鉄」の名称が「五代目会津小鉄」になるとともに高山は会長から退いて圖越が新たに会長に就任した。四代目と五代目はその名称にいずれも「会津小鉄」を使用し、代紋及び本部事務所が同一であり、五代目会長の圖越は四代目の若頭であった。四代目と五代目の組織構成、機関に大きな違いはなく、その組織運営の方法も同様である。そして、被告は同年三月二五日付けで指定に係る暴力団の名称が「五代目会津小鉄」に、指定に係る暴力団を代表する者の氏名が「圖越利次」に、その住所が「京都府京都市下京区上ノ口通加茂川筋西入波止土濃町三一六番地」にそれぞれ変更された旨の官報公示をした。

(三) 以上の事情にかんがみれば、四代目と五代目とは指定処分の対象となる暴力団として同一であるから四代目は名称を「五代目会津小鉄」に、その代表者を圖越にそれぞれ変更したにすぎない。四代目が五代目とは全く別個の団体であり、四代目が解散により完全に消滅したから、四代目に関する本件訴訟は終了し、四代目訴訟代理人が本件訴訟手続に関与する権限を喪失した旨の原告(四代目)の主張は失当である。

2  本件指定処分の取消事由

(原告の主張)

(一) 法、施行令、施行規則、聴聞規則はいずれも違憲である。

(二) 法三条が定める指定要件は違憲である。

(三) 法三条が被告に指定権限を付与したことは違憲である。

(四) 本件指定処分がなされるまでの施行令、施行規則、聴聞規則の運用は違憲違法である。

(五) 本件指定処分は、実質的には平成四年に被告がした違憲違法な同様の指定処分の更新にすぎず、これと一体となるものとして違憲違法である。

(六) 本件指定処分は指定に至るまでの手続や指定要件の存否の判断の過程等に違憲違法の事由がある。

(七) 本件指定処分に先立つ意見聴取手続等に違憲違法の事由がある。

(八) 本件指定処分を法四条によらず法三条でしたことは違法である。

(被告の主張)

法、施行令、施行規則、聴聞規則はいずれも合憲であり、原告は法三条各号の要件を充足する団体であって、本件指定処分の手続には何ら違憲違法の事由はない。

第三争点1に対する判断

一  法の規制対象団体の存否に関する基本的な立場

法は「暴力団員の行う暴力的要求行為等について必要な規制を行い、暴力団の対立抗争等による市民生活に対する危険を防止するために必要な措置を講ずるとともに、暴力団員の活動による被害の予防等に資するための民間の公益的団体の活動を促進する措置等を講ずることにより、市民生活の安全と平穏の確保を図り、もって国民の自由と権利を保護することを目的とする」ものであり(一条)、規制の対象を特定するため、公安委員会が指定暴力団または指定暴力団連合の指定をする旨(三条、四条)を定めている。これを受けて、法(七条)及び施行規則(五条)は公安委員会は指定暴力団に指定するときは指定に係る暴力団の名称、主たる事務所の所在地、代表者の氏名及び住所などを官報により公示しなければならない旨並びにその公示された事項に変更があったときはその旨を官報により公示しなければならない旨をそれぞれ定めている。また、法は指定暴力団が解散その他の事由により消滅したときは公安委員会は指定を取り消さなければならない旨定めている(八条二項一号)。これらの総則規定に基づいて指定された暴力団等の存続を前提として、公安委員会が当該暴力団員の暴力的要求行為の禁止等、同団員の不当な要求による被害回復等のための援助、指定暴力団等相互間の対立抗争時の事務所の使用制限、指定暴力団員による指定暴力団等への加入強制の規制等を行うことができる権限を付与し、これに反する行為者に対する刑事罰を定めるなどしているのである。

これらの諸規定を通じてみると、法は規制の対象となる暴力団が一定の限度で団体性を持つことを前提とし、団体の名称、個々的な構成員、事務所の所在地の変更等があっても、団体としての同一性が維持されている限り、公示事項の変更の公示等を経るのみで、一個の暴力団指定処分に基づいて前記の各種法規制を行おうとするものであると理解することができるのである。したがって、これを法三七条の定める不服申立てのための手続段階について見ても、法三条による指定を受けた暴力団がその後団体の名称、構成員及び代表者の変更等があっても、団体としての同一性が維持されている限り指定を受けた団体として、変更後の名称等のもとで不服申立てを行い、またすでに行われている申立てを継続することが許され、かつこれを継続などするほかないのである。

二  原告である団体の実態

原告は、原告であった「四代目」は解散によってその組織が消滅したから、「四代目」に関する本件訴訟は終了し、原告の訴訟代理人も訴訟代理権を行使することができなくなったと主張し、なるほど本件記録(原告訴訟代理人弁護士南出喜久治作成の「資料説明書」、乙六三なし六五と符号の付された各書面)によれば、高山は平成九年一月八日に四代目会長の地位から退き四代目から離脱し、次の会長を四代目若頭の圖越とする旨明らかにしたこと、同年二月一二日には「五代目会津小鉄継承式」と称する催しが行われ、高山は四代目会長から退き圖越が五代目会長に就任したことがそれぞれ認められる。

そこで、原告の主張する「四代目」の組織が消滅したものか、被告が主張するように同組織と「五代目」組織が名称、代表者等を異にするにすぎず、団体としての同一性を維持しているものであるか、以下認定判断することとする。

本件記録(原告訴訟代理人南出喜久治作成の「資料説明書」、乙五八、六二ないし六五、六六の1ないし6、六七、六八、六九の1ないし6、七〇、七二と番号を付された各書面)によれば、次の事実が認められる。

1  高山は平成九年一月八日に開かれた「定例総会」において四代目会長の地位から退き四代目から離脱し、次の会長を四代目若頭の圖越とすることを表明し、同月一四日に高山の擬制的血縁関係上の弟二名と子一名を圖越の擬制的血縁関係上の弟とする趣旨の「舎弟盃」が行われた。さらに、同月二六日には高山の擬制的血縁関係上の子一〇名を圖越の擬制的血縁関係上の弟とする趣旨の「舎弟盃」が行われるとともに、高山の擬制的血縁関係上の子四五名等を圖越の擬制的血縁関係上の子とする趣旨の「親子盃」が行われ、同時に四代目のもとで相談役、副本部長、小頭、若頭補佐、若中の立場にあった一二名のものが退き、新しく相談役等の役に就いた者の氏名が発表された。

平成九年二月一二日には「五代目会津小鉄継承式」が準若中以上の構成員の大部分が参列して行われ、高山は四代目会長から退き圖越が五代目会長に就任した。

2  五代目は四代目と同じ「会津小鉄」の名称、瓢箪の形の代紋、主たる事務所(京都市下京区東高瀬川筋上ノ口上ル岩滝町一七六番地の一)を使用し、圖越は四代目若頭の地位にあったところ四代目会長の高山の指名を受けて五代目会長に就任した。

3  四代目は会長、総裁、相談役、若頭、本部長、副本部長、小頭、若頭補佐、若中、準若中の地位があって、若頭以下小頭までの九名が執行部を構成して傘下組織の人事の統制、葬儀等の行事の管理をするほか会長による運営方針の決定への関与、決定された運営方針等の傘下組織に対する指示などをしていた。

これに対して、五代目は会長、副会長、舎弟頭、相談役、舎弟、本部長、副会長補佐、事務局長、若中、準若中の地位があって、副会長、舎弟頭、本部長、副会長補佐の一〇名が執行部を構成して四代目のそれと同様の役割を果たしている。

そして、五代目の執行部を構成する一〇名のうち二名は四代目の執行部を構成していた者であり、それ以外の八名も四代目の若頭補佐あるいは若中であった者である。また、五代目の相談役の二名は四代目の相談役であった者、五代目の舎弟の九名は四代目の小頭、若頭補佐、若中のいずれかであった者、五代目の本部長は四代目の会長付若頭補佐であった者、五代目の副会長補佐の七名は四代目の会長付若頭補佐、若頭補佐会長付若中のいずれかであった者、五代目の事務局長は四代目の本部付若中であった者である。三〇名を越える五代目の若中の立場にある者は四代目の若頭補佐、若中等であったものであり、五代目の若中の立場にある者で新しい構成員は一〇名弱を数えるのみである。

4  五代目の運営を支配する地位にある者で施行規則二条二号の規定に該当する者は副会長、舎弟頭、相談役、舎弟、本部長、副会長補佐の立場にある総数二一名で、このうち八名は四代目の運営を支配する地位にあった者であり、それ以外の一三名も四代目の若頭補佐あるいは若中であった者である。

5  四代目は「四代目会津小鉄内規」を定め構成員に適用していたが五代目も「四代目会津小鉄内規」を引き続き使用している。

6  被告は平成九年三月二五日付けで指定に係る暴力団の名称が変更前「四代目会津小鉄」から変更後「五代目会津小鉄」に、指定に係る暴力団を代表する者の氏名が変更前「姜外秀」(高山)から変更後「圖越利次」に、代表者の住所が変更前「滋賀県大津市長等一丁目五番二九号」から変更後「京都府京都市下京区上ノ口通加茂川筋西入波止土濃町三一六番地」にそれぞれ変更された旨の官報公示をした。

以上の事実が認められる。

三  原告の主張に対する判断

以上の認定事実並びに本件記録を総合すると、四代目と五代目とは、他の団体との識別上より大きな機能を持つと見られる「会津小鉄」の部分が共通であり、その他のいわば世代を表現する部分で「四」と「五」の相違があるだけで、各要素を総合すると当該呼称によって表現される団体組織が同一性を維持しつつ代表者等の構成員に世代の交替があったことを示唆するような呼称の変更にすぎないと看取できる上、組織の象徴と目すべき代紋、主たる事務所、団体を規律すると見られる内規も同一であることのほか、執行部及び運営を支配する地位にある者がいずれも四代目の構成員であってその中には四代目の執行部あるいは運営を支配する地位にあった者もいること、圖越は四代目若頭の地位にあったところ四代目会長高山の指名を受けて五代目会長に就任したこと、全体の構成員の大部分が両者で同一であることが認められるのである。

以上の諸点からすると、四代目と五代目とは代表者の変更、構成員の呼称及び構成等に変更があったものの、組織全体としては同一性を維持したものと認めるのが相当である。したがって、法に基づいて指定された四代目の組織が消滅したとはいえないから、本件訴訟は終了しないし、四代目の代表者によって委任された原告訴訟代理人はとりもなおさず五代目の訴訟代理人として本件訴訟において訴訟代理権を行使することができるというべきである。

したがって、原告の前記主張は採用することができない。

第四結論

よって、主文のとおり中間判決する。

(裁判官 大出晃之 磯貝祐一 平野双葉)

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